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【作詞入門】アイドル曲の歌詞ってどうやって作っている?
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【作詞入門】アイドル曲の歌詞ってどうやって作っている?

皆さんが普段聴いている曲の歌詞。

そこにはどんな工夫や仕掛けがあるのかを意識したことありますか?

ついつい口ずさんでしまうお気に入りのフレーズ、ハミングするサビ、よく耳にする作詞家のお気に入りの単語。

今回はアイドルの曲を題材に深く読み解きながら、歌詞に仕掛けられたタネや技術を解説していきたいと思います。

アイドルの曲の歌詞なんてみんな同じ!?

仮面のアイドル

http://www.photo-ac.com/

「アイドルの曲なんてテキトーに騒げれば歌詞なんかどうでもいいんだよ」って思っていませんか。

何となく「あなたを思うよ、前を向いて、絶対負けない、明日へ向かって、とか並べてるだけでしょ」と思っていませんか。

実は……そんな曲もたくさんあります。

売れっ子の大御所作詞家さん達は一ヶ月に数十曲書く事もあるのだから、その中に数曲味もそっけもない定石通りの歌詞があっても仕方ないと思います。

それに、思っている以上に、ハチャメチャな曲ばかりだと聴く方も大変です。

ライブでも疲れます。

もしくは、考えられる場合としましては、その曲を発注した側が「ベタなアイドル風でよろしくお願いします」を要求している場合もあります。

そこにはニーズに応えるプロとしての立ち居振る舞いがある事でしょう。

ただ、だからと言って大御所と同じ事をあなたがしてももちろん駄目です。

今回は、まずお手本となるような2曲を解説したいと思います。

お手本神曲:虹のコンキスタドール|THE☆有頂天サマー!!

作詞はNOBEさんです。

Aメロ

至極リズムの取りにくい短音続く怒涛のAメロに

「余韻なスキン」→「夏」→「晒す(さらす)」→「超展開!?」

と、詰め込み過ぎにも思える短単語をあてています。

作詞家は厄介な(あえて厄介と表現しますが)単語を並べるだけで、その後のひと夏の物語を以降の歌詞と共に受け取り手(聴く人、ファン)にゆだねています。

単語自体が意味を多重化させ深さを持ち自然とつながって行く、これを「単語の深化」と名付けます。

歌詞のスートリーについてですが「物語なんて発信側がリードしなくてもいいんだよ」と言われているかの様です。

作者はあえて助詞や助動詞を使わずに「晒す(さらす)」の一言でドキドキ感やワクワク感をそっと音符の上に置きます。

心の高ぶりの遅速(ちそく)に差はあるとは言え、その単語が「夏」と「超展開」に挟まれているのだからこのグループのファン層にマッチアップした歌詞と言わざるを得ないです。

全体的に跳ねた楽曲なので偶然なのかもしれませんか、この組み立てはなかなかマネする事が難しいハイセンスのなせるわざだと思います。

マネをして作る事は無理でも「マネ事」はできますので皆さんも頑張ってみてください。

キーワードは「単語だけで世界を作る」です。

Bメロ

Bメロには「痩せない」「着れない」「行かない」「やらない」…と同じフレーズが15回繰り返されます。

聴く側の想像力をギリギリつなぎ留められる「単語」を動詞の羅列でまとめています。その単語の斡旋(あっせん)は見事。

私はこの曲を初めて聞いた時、純粋に「何年かかってもこの人には敵わないのかな」と思った事を覚えています。

「思った」ではなく、カエルがヘビと対峙(たいじ)した時に「ヤバイ」と思う気持ちに似ていたのかなとも思います。

お手本神曲:Miniature Garden|明日への花束

作詞は前田貴宏さんです。

Aメロ

曲冒頭のギターのリフがお洒落って、歌詞には関係ないですがあえて書き残します。

歌詞は「孤独を背負って」「涙堰(せ)き止める音が響く」など、全体的に文学の甘い香りがします。

文学的甘さが遠慮深く上品で、かつ言葉の「ひけらかし」を最小限に留めています。

言葉一つ一つもそうですが、歌の世界観の難しさが鼻に付かないギリギリのラインで踏みとどまり、それが音やリズムを意識しての事なのですから、これも作者の持つ一つの天性の技術なのでしょう。

言葉の伝達性から見ればやや不利な歌詞ですが、「大好きよ」「愛してる」の裏側を掬った(すくった)と言えばそれも重々にしてアリだと思います。

Bメロ

短いBメロの少し無情にも思える歌詞が、激しさを増す音楽展開と相まって曲をグググっサビへと盛り上げます。

特にサビへつながる最後のフレーズ「明日をいざよう月や」の「や」は、全く持って俳句の切れ字「や」の用法であり、心の高ぶりの凝縮点がこのワンフレーズに収められています。

最下座ではありますが、俳人である私にとっても、アイドルの歌詞にこのような切れ字を見つけることができたのはとてもうれしい事です。

そのような意味からも、この「明日への花束」はアイドル街道まっしぐら、から少し離れた異色の歌詞であると言えます。

たまに「俺(私)の歌詞を見ろっ!」的な詞を書く人もいますが、もちろん難解な歌詞を全否定する訳でもありませんが、アイドルの歌詞としてはやや狭いターゲット層になるのではないかと思います。

最後に

このように歌詞にはたくさんのメッセージ、意図が隠されています。

まず曲を聴いて注目するところからはじめましょう。

どのようにしたらすてきな歌詞が書けるかは、次回から徐々に触れたく思います。

ライタープロフィール

アイドル作詞家・俳人

瀧乃涙pin句

何のツテもないまま作詞を開始。

数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。

SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。

週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。

Twitter:t_pink_t

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