【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。イメージカラー編
歌詞には関係ありませんが、皆さんは「色分け」ってご存じでしょうか。
この回では、色を意識した作詞のヒントを探りたいと思います。
もくじ
イメージカラー
最近のアイドルの多くはイメージカラーがあらかじめ与えられています。
例えば、ももいろクローバーZなら、百田さんは赤色、玉井さんは黄色とかです。
ファンはペンライトやサイリウムといった発光グッズ、パーカーやTシャツの色で自分の推し(ごひいき)をアイドル本人に、また他のファンに示します。
そこに見返りはありません。
自分の推しをただただアピールするだけの自己歓喜行為です。
お手本神曲:乙女新党|ときめき☆パラドックス
作詞は浅野尚志さん。
赤色系の歌詞
赤やピンクなど、女子力の集積による乙女チックな歌詞です。
慣用化された単語がいくつか登場するものの、その歌詞群は現実と空想のはざまに住む女子像から起こされているかのようです。
もちろん、本物の女子中高生が書いてもこの様な乙女心満載の歌詞にはなりません。
いい意味で頭の良い大人が「歌うアイドル」を対象に、また「そのアイドルが好きなファン」をターゲットに書かれた歌詞なのです。
前にも触れましたが歌うアイドルを逆算して書く行為です。
一人称で書かれている歌詞「心拍数は急上昇 びっくりして目をそらす」はドラマの様な一コマ。
桃色のシチュエーションに、苦労の跡を感じさせず、赤色に散らばる歌詞を正しく並べていいます。
語彙(ごい)の多さとその取捨選択は天性の才能かはたまた鍛錬の業(わざ)か。
乙女心を意識した全編甘味しかない歌詞ならどこか鼻につきそうな「ウソ」が生まれそうですが、この歌にはそれがありません。
歌詞に現実的な小物を登場させてうまくバランスを取っているのでしょう。
勉強となりますので、歌に出て来るアクセントとなる小物を試しに探してみてください。
楽しいと思います。
曲中の挿入
曲の中に独白台詞や会話、寸劇が挿入されているのが最近の流行りです。
この歌にも台詞「別に、あんたのことなんかどうでもいいし!」「か 勘違いしないでよね!」など、ドラマや漫画で見掛ける胸キュンフレーズが挿入されています。
日常や非日常の断想をふと思い浮かべた時、このような台詞が歌詞と共に心の中に迫って来ても、それはそれでうれしいものです。
私立恵比寿中学の曲「金八」には途中CMが入ります。
たこやきレインボーの「元気売りの少女~浪花名歌五十選~」には漫才が入ります。
アイドルに見られるエポックメイキング的な挿入はまだまた増えそうです。
あくまでも赤色(乙女)で
サビの「ほんとはほんとは いつもキミといたいんだよ!」雑味ない、軽やかなフレーズにしてまことに精妙、女子のファンさえ取り込む愛らしい歌詞です。
この歌詞の後に「オレモー!」とファンのコールが入ります。
一度聞いたら忘れられない収まりの良さです。
サビの「あぁもう わたしの気持ち いつになったら 伝えられるのかな?」恋愛と乙女心の密接不可分なときめき、不安定な情緒の交錯が見事に表されています。
女子が持つ特有の赤一色のイメージを見事に具現化しています。
歌詞を書く時は「夏→青、女子→赤、青春→白」など、イメージカラーを決めると、同系色の言葉がそのイメージ色に引っ張られて来ます。
これも歌詞を書く上でのヒントとなるのではないでしょうか。
最後に、この歌詞に応えるパフォーマンスができたメンバー個々のアイドル偏差値の高さも特筆したいです。
乙女新党は2016年7月3日のライブをもって解散。
また一組、私たちの心に色褪せることなく輝き続けるアイドルが増えたと言う事なのでしょう。
お手本神曲:Arrow Heart|刻々☆クロック
作詞は菊池諒さんです。
散文的な盛り上がり
激しいAメロにしてはかわいい歌詞。
かわいいはキュートの方ではなく、クールとプリティの中間。
プリティの持つ原色純粋なドギツさはあると思います。
ただしその原色は黒。
歌詞「囚われている今 影が襲いに来る 過去を掘り起こされ壊れる」抽象的に使われた「影」に含みを持たせて散文的な盛り上がりを意識的に作っています。
塗り込められた感じの言葉は広がる波紋の様に美しい響きを持っています。
Bメロは一息つき、ダークガーリーなメロディーが特徴的です。
聴く側に意識させることなく歌詞にメリハリがついています。
埋もれて日の当たらない部分からの歌詞「右へと回る針が 私の時を『ほら・・・』むしばみ続ける中 巻き戻したいのBaby」は、一段上のサビへつなげる絶好のフレーズ。
文字数という作詞の型式にうずくまっていないパワーはロックであり、叫びである証です。
歌詞と音楽
ロックやメタルの歌詞は思った以上に散文的黒色の歌詞が多くて、結局な所、幾分趣味が過ぎる「破壊賛歌」や「破滅信奉」に寄せて行くパターンがよく見受けられます。
ロック、メタルの草創期からそのような歌詞が主流と成長し、今でもその流れを汲む流派があるのだから、もはや歌詞うんぬんではなくロックやメタルはある種「呼吸」であり「生き方」なのでしょう。
この曲のサビの歌唱はややおとなしいです。
アンジェラ・ゴッソウ並にガチコンと声を張り上げて歌って欲しいのですが、それは私の嗜好(しこう)であり、また歌詞とは関係の無い事です。
しかしながら「鳴らせ!刻々☆クロック回る回る世界で」とひときわ目を引く感激のフレーズがあるので、もっともっとそれをグイグイと全面的に押し出せないかな…と老婆心ながら。
「カッコ良さ」と「かわいさ」のはざまで
2番の歌詞もかわいいです。
信念ある言語操作なり意匠なりの上に成り立って「逃げてちゃ始まらない」の前向きさ「3時のおやつまだ?」の可愛さ、押して引いてが至極絶妙です。
色の意識を例えるなら黒色が薄くなったり濃くなったりと、黒を基調とした邪魔にならない静けさが全編を貫きます。
いずれ「もっとカッコよさを追及したハードさ」か「よりかわいいロックを求めて」か、単純にハードロックなのか、かわいい系なのか、のどちらかに寄せては行くと思うのですが、この「刻々☆クロック」の歌詞をつづれる程のブレインに囲まれているのなら、どちらに振れたとしても心配は要らないかなと思います。
技術的な事ですが、歌詞にスパイス(メリハリ)を与えて歌詞の流れを変化させる方法の一つとして
- ハードなノリで書き上げてから→キュートな単語を足す
または、その逆
- キュートなノリで書き上げてから→ハードな単語を足す
に挑戦してみてください。
「刻々☆クロック」はまさにそのお手本、もっと広く拡散すればなあと思う一曲death(デス)。
ライタープロフィール
アイドル作詞家・俳人
瀧乃涙pin句
何のツテもないまま作詞を開始。
数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。
SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。
週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。
Twitter:t_pink_t